小型2Wayスピーカ
弦楽器の再現性を重視した小型2Wayスピーカを自作しました。 W11CY-001は2リットル程度の密閉式エンクロージャに入れ、 C2-12をその上に端材をベースにしてのせただけの簡単なスピーカです。 音質は控えめながら芯のある低音とそれにつながるさらっとした高音が特徴です。
板の材質は15mm厚MDFで、酢酸ビニル系接着材(つまりフツーの木工用ボンド) を用いて接着しました。板の接合にネジは使っていません。接合部分はホゾなどを 切らずにドン付けとしました。箱はまず最初に実験箱を作り、それから綺麗な箱を 作るつもりで作りました。しかし、実験箱の状態で楽しく音楽が聴けてしまって、 塗装も装飾もしない状態でそのまま聴き続けることになりました。
主な構成部品
主な構成部品を以下の表に示します。 Seas excell lineのW11CY-001は紙コーンの高級小型wooferで、 C2-12は40kHzまで再生可能なセラミック逆ドームtweeterです。
部品 メーカー 型番等 パラメータ
High frequency driver Thiel&Partner C2-12
Low frequency driver SEAS W11CY-001
Low cut I. T. Electronic GmbH AUDYN CAP MKP-QS 6.8uF +/-5% 630VDC (PP)
ATT. for HF 酸化金属被膜抵抗 -9.4dB
High cut TRITEC EPOXY-MOLD OFC COIL 0.27mH (0.18mohm)
LF driver impedance compensation I. T. Electronic GmbH AUDYN CAP MKP-QS 10uF +/-5% 630VDC (PP)
LF driver impedance compensation 酸化金属被膜抵抗 2 + 3 ohms
ネットワークはローカット、 ハイカット共に1次のフィルタを用いました。 1次のフィルタは音がたいへん爽やかで、聞いていてリラックスできるのが利点です。 woofer側のW11CY-001のみボイスコイルのインダクタンスを相殺するように インピーダンス補正つきとしてあります。 C2-12はインピーダンスカーブがフラットなのでインピーダンス補正は必要なさそうです。 C2-12の音の特徴をなるべく生かすために、低めの周波数まで使っています。 クロスオーバー周波数は2.7kHzくらいです。 私の場合、ネットワークがなかなか気にいらなくて、 ネットワークの調整だけに2年もの歳月を費やしてしまいました。 ネットワークの調整はシビアで難しい作業だと実感しています。 最終的なネットワークは以下に決まりました。
ちなみに、W11CY-001のハイカット周波数はインダクタンスで決まっています。 インダクタンス素子は微調整ができないために、ハイカット周波数の微調整ができません。 私は W11CY-001とパラレルに接続されたインピーダンス補正素子の抵抗を調整して ハイカット周波数の微調整を行っています。 ただし、減衰カーブは6dB/octから少しずれてしまいます。 ということで、インピーダンス補正素子の抵抗には、 インピーダンス補正の最適値である6Ωではなく5Ωという中途半端な 抵抗がつかわれています。
同様に、C2-12のローカット周波数は容量値を固定として アッテネータでインピーダンスを微調整することで行っています。 アッテネータに使っている酸化金属被膜抵抗は安価なので 微調整用にたくさん買っても痛くないのがなにより助かります。 スピーカの完成度が上がってほかにいじるところがなくなったら 抵抗の銘柄にもこだわってみたいと思います。 いったいいつになることやら…

音はやわらかくなめらかで自然な感じです。 体の中に染み込んでくるような雰囲気があります。 スピーカが無塗装だったり、セッティングがいいかげんな割に 奥行き感や広がりがあって楽しめます。 ネットワークの完成度も上がってきたようで、 tweeterとwooferが一体となって鳴っているように聞こえて 再生装置のことを気にせず音楽に集中できます。

Qtc の調整
スピーカは2次の系になるのでその応答はQ値を用いて表すことができます。 密閉箱に入ったスピーカでは箱を含めたQ値のことをQtcと呼ぶようです。 密閉箱はこのQtcの値によって音が変わるらしいので Qtcを変えて比較試聴してみました。

過渡応答がもっとも優れているのはQ=0.5(critical damping)です。 実験箱は過渡応答重視で低めのQtcを選んでいます。 W11CY-001のT/S パラメータと実効内容積約1.9(l)を用いると Qtc=0.58という値が得られます。(下表Case 0)
箱の内部に木片等の固いものを入れてやれば 箱の実効内容積を減らすことができます。 下表 Case 1では実効内容積を1.45(l)としました。 この時Qtc=0.65となりました。 もう少し小さいQtc=0.71も試してみたいのですが、 吸音材が邪魔でこれ以上木片が入れにくいので断念しました。

Case 0 Case 1
Vb (l) 1.9 1.45
Qtc 0.58 0.65

視聴結果を簡単にまとめます。

Case 0 : つまった感じの重い低音でガツンと来る芯のある音。
Case 1 : 躍動感のある低音で、弦や膜が振動している様子がイメージしやすい音。

Case 0は、低音に入力があるときちんと出ますが、 必要以上に響かせない厳しさみたいなものがあります。 「寡黙な低音」といったところでしょう。 一方、Case 1は軽くあっさりした低音でふわふわと漂ってくるような低音です。 でも、大きな音を出したときはこちらの方が演奏のディテールが聞き取りやすいです。 「唄って踊る低音」とでも言いたくなるような雰囲気です。 私にとって楽しく音楽が聴けるのはCase 1という結論に至りましたので、 しばらくはCase 1の設定で使ってみるつもりです。

ところで Qtc の計算はスピーカ内部に吸音材が入っていない条件で計算しています。 しかし実際には若干の吸音材が入っているので計算がずれてしまいます。 また、Qtcの計算に必要なT/Sパラメータにはそれなりに大きな製造ばらつきがあるそうです。 さらにT/Sパラメータは入力パワーによっても変化します。 ですので計算された Qtc はかなり大きなエラーバーを持っていると予想されます。

LOUDSPEAKER DESIGN Cookbookによると Qtc=0.5は"excessively taut and over dumped"で、 Qtc=0.7は"more detailed but somewhat shallow"らしいです。 (Qtc>1 と比較して more detailed だそうです) 検証不足な比較試聴をしたのに、教科書と近い結論にたどり着きました。 間違ったことをやっていなさそうなので、今後の設計で参考にできそうです。 (この結果は現在製作中の中型3Wayスピーカで利用しています。)

参考文献
Vance Dickason, The LOUDSPEAKER DESIGN Cookbook sixth edition, 2000.