オリジナルパッシブプリアンプ
L 型アッテネータを利用したパッシブプリアンプを自作しました。 しっかりしたアルミケースにセレクタとアッテネータを入れ、 6N 線で接続し搭載したシンプルな構成です。 音質はなかなかのもので、音楽の表情とその空気感がよく伝わってきます。 一度利用し始めると止められないものがあります。
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Original Pre Amplifier
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回路図
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主な構成部品
部品 メーカー 型番等
音量調整用ボリューム アルプス デテントボリューム RK40312 50kohms
セレクタSW 東京光音電波 CV21G-1205R25M 2回路5接点
配線材 ACROTEC 6Nケーブル AWG20(水色)
ケース タカチ アルミケース(型番不明)
つまみ 三栄無線 各種ボリューム及び切替SW用アクセサリーアダプター
特色
一般的なプリアンプはアクティブ素子(トランジスタ、真空管)による増幅を行います。 アクティブ素子にはバイアス電流が必要ですから電源が必要になります。 一方、パッシブプリアンプではボリューム、もしくはアッテネータによる減衰のみを行います。 バイアス電流が不要ですので電源が不要になります。 パッシブプリアンプのメリットは以下のようなものが考えられます。
  1. 構成部品点数が少なくシンプルで自作向き
  2. 高級パーツをつかってもコストが比較的手頃
  3. 一旦アッテネータで減衰させてから、アクティブ素子で必要なレベルまで再び増幅するという無駄がない
  4. アクティブ素子を使わないのでローノイズが期待できる
ところで、パッシブプリアンプには気になる点もあります。
  1. 部品点数が少なくアッテネータの質が音質に強く影響する
  2. 入出力インピーダンスが高いので条件によっては、 ケーブルの容量とインピーダンスで高音の位相回転や減衰が起ってしまう。
  3. 増幅回路がなく抵抗比で信号を減衰させるので減衰比に応じてシステムのS/N比が劣化する。
  4. 増幅作用がないので最大出力電圧が小さい。
  5. 単相/差動変換が出来ない。
現在、アッテネータにはアルプス(ALPS)のRK40型ボリュームを利用しています。 抵抗値は何種類か選べたのですが、 電子工学のことなど何もわからない時だったので適当に50kohmsを選択しました。 ローノイズ、ワイドレンジを目指すならもっとインピーダンスの低いボリュームを選ぶべきでした。 これは、是非とも買い換えたいと思っています。 どうせ買い換えるなら…RK50型が欲しい!!とこっそり思っています。 が、高価なのでなかなか手をだせません。 アルプスの通販サイト電即納で販売されています。それによると2連と4連があります。 注目のインピーダンスは50kohmsか100kohmsで、残念ながら10kohms等はありません。 と思ったのですが、電即納対応品以外の製品として10kohmsと20kohmsも存在するようです。 物欲が刺激されます。
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周波数特性
周波数特性とノイズ量についてはどうにも気になるので、 自分のシステムの周波数特性と、S/N比を簡単な計算で検証しました。 まずは周波数特性を確認します。 パッシブプリアンプはバッファを持たないため、 ボリュームのポジションによって出力インピーダンスが変化します。 自作したパッシブプリアンプでは50kohmsのボリュームを使っているので、 出力インピーダンスは0 - 25kohms程度で変化します。 25kohmsは圧倒的な高出力インピーダンスです。 一方、ケーブルの寄生容量とパワーアンプの入力容量は数百pF程度あるはずです。 このCRが1次のローパスフィルタを形成し場合によっては可聴帯域内で 高域減衰が生じます。
出力インピーダンスが一番低くなるのはボリューム最大と最小のとき、 逆に一番高くなるのはボリュームの抵抗値がちょうど2分割されるときです。 音楽を聴いているときのボリュームのポジションは、 8時から11時くらいの位置で完全にカバーされています。 右半分は使ったことがありません。 (S/Nの無駄遣いです、なんともったいない!!) RK40の抵抗変化特性はAカーブなので、 一番大音量で聴いているときでも減衰量20dB以上になっていそうです。 ということで実使用時の出力インピーダンスは最大でも5kohms程度と予想されます。 R=5kohmsを実使用時の最悪値として採用します。
プリアンプとパワーアンプはベルデンSTR192R(1.2m)を使っています。 このケーブルの寄生容量は230pF程度です。 パワーアンプの入力容量、プリアンプ内部配線による容量の分も考慮すると さらに容量は増えます。キリがいいところでC=250pFとしておきます。
高域の-3dB周波数は

f0 = 1/(2pi*C*R) = 127kHz

となります。 位相回転はこの周波数の1/10程度からはじまります。 20kHz以下を周波数特性、 位相特性共にフラットにするためにはf0を200kHz以上にする必要があります。 現状ではこの条件を満たしていませんから、予想通り要改善です。 改善方法は、ケーブルを短くして寄生容量を削減するか、 ボリュームの値を10kohmsに変更することになります。 しかし、気が付いていないだけかもしれませんが 現状でもTwの帯域(約3kHz以上)に大きな不満があるわけではないのです。 ここはあせらず、S/N比計算の結果も参考にして今後の方針決めることにします。

S/N比
RDV-1のS/N比は112dB以上、アナログ出力 2.0Vrmsです。 DVDプレーヤのS/N比を計算する場合の帯域は不明ですが20kHzと仮定します。 また、人の耳の感度にあわせた補正は入っていないものと仮定します。 出力雑音レベルVnは以下で計算できます。

VnS = 2.0 * 10^(-112/20) 〜 5uV

デテントボリュームが発生するノイズは寄生効果を無視すればほぼ50kohmsの抵抗成分によるノイズで近似できるはずです。 ノイズはVnR = 4kTrB で、あらわされます。ここで、kはボルツマン定数、Tは温度、rは抵抗値、Bは帯域幅です。

VnR^2 = 4 * 1.38e-23 * 300 * 50k * 20k 〜 1.6e-11

VnS^2VnR^2の関係は以下の図で表されます。

VnS^2VnR^2は直列に接続されていることがわかります。ですから、トータルノイズは両者を加算すれば得られます。それぞれのノイズ源は無相関ですから電圧でなく電力で加算します。

Vout^2 = VnS^2 + VnR^2 〜 4.2e-11

S/N比の悪化は雑音指数NFによってあらわされます。

NF = Vout^2/VnS^2 〜 1.7

となりS/N比は2.2dBの悪化になります。 10kohmsのボリュームで同様の計算をするとS/N比の悪化は0.54dBで済みますから1.5dBの損をしていることになります。 これは結構気になる数字だと思います。
面白いことに(つまらなかったらすみません。)、 純粋なアッテネータ(ボリューム)のNFは減衰量によらず一定です。 入力信号も自身が発生するノイズもアッテネータにより同じ量だけ減衰するからです。 しかし、アッテネータの出力をアンプで増幅する場合は減衰量が大きいほどシステムのNFは悪化します。 減衰量が大きいほど(信号が小さいほど)パッシブプリアンプの後ろに接続されるパワーアンプのノイズフロアが見えやすくなるからです。

アッテネータの接触抵抗Rparaの抵抗値(r)は絶対値が小さいので今回の計算では無視しました。 この寄生抵抗により生じるノイズVnr^2はアッテネータの減衰量によらず一定です。 ですから、減衰量によってこのノイズの影響は違ってきます。 減衰量が大きい場合は信号に対してこのノイズが相対的に大きくなる傾向があるのではないかと思います。 それでも無視できるレベルだと思いますが。
減衰量
パッシブプリアンプの減衰量と減衰量偏差を測定しました。測定結果を以下に示します。 デテントボリュームは31ステップあって、ここでは最小の-∞をポジション-30として、 最大の減衰なしをポジション0としました。減衰量のチャネル間偏差は思ったより少なくて 最大でも0.9dBでした。通常使用している音量だと、0.4dB以内に収まりそうです。 さすが抵抗体が大きいボリュームを利用してるだけあって安心です。
まとめ
減衰量と減衰量偏差を実測で確認しました。 減衰量の偏差は比較的小さくて安心して利用できるレベルにあることが分かりました。 また、周波数特性、S/N比をラフに見積もってみました。 50kohmsのボリュームを使う場合はどちらも微妙に問題を抱えていることがわかりました。 そして、ボリュームの抵抗値を10kohmsに変更すると(可聴帯域内に限れば) ほぼ満足行く結果が得られそうなことが分かりました。 ここまでわかったならばRK40型の10kohmsを入手して比較テストしてみたくなります。 しかし本当に残念なことですが、このボリュームはすでに流通していないため入手は困難です。
自作したパッシブプリアンプは今でも十分楽しめるレベルにあります。 それでも、上記の問題が解決できればさらによい結果が望めるのではないかと思います。 背伸びしてRK50型を購入するか、さらに背伸びして抵抗切り替え式アッテネータを作るか…。 今後どちらかに挑戦してみたいと思います。次のハードルはかなり高いです。
参考
belden STR192Rの電気特性(ケーブルのみのデータ)
特性インピーダンス(ohms) 40
寄生容量(pF/ft.) 57.4
寄生抵抗(ohms/1000ft.) 26.6
寄生インダクタンス(uH/ft.) 0.21
用語について
「パッシブプリアンプ」は不思議な名称です。 言葉の意味を確認するところからはじめましょう。 パッシブ(受動)という単語はアクティブ(能動)と対になる意味で用いられています。 パッシブ回路は電気回路で抵抗(R)、容量(C)、インダクタ(L,M)などの電源が不要な受動素子のみで構成される回路です。 一方、アクティブ回路は一般的に電子回路と呼ばれ、受動素子に加えてダイオード、トランジスタ、真空管などが用いられます。 アクティブ回路は入力信号のエネルギーを増幅する作用があります。 増えた分のエネルギーは電源から供給されます。 「パッシブ」というのはLCRのみで構成されて増幅作用がないということを意図して名前が付けられたようです。 プリアンプについては説明は不要かもしれませんが念のため確認しておきます。 プリ(pre-)はパワー段(電力増幅段)の前段であることを意味し、電圧増幅を行います。 アンプ(amplifier)は増幅回路のことを意味します。 「パッシブプリアンプ」というのは増幅作用のない素子で構成された増幅回路という不思議な意味になってしまいます。 「パッシブプリアンプ」とは機能を表す名前で呼ぶなら ラインセレクター付きアッテネータボックスもしくはパワーアンプコントローラなどがいいと思います。 しかし、「パッシブプリアンプ」という名称が一般的なため当HPではパッシブプリアンプをラインセレクター付きアッテネータボックスを意味する言葉として用いました。 アッテネータ、フェーダー、ボリュームはすべて可変抵抗器を用いた減衰器を意味します。